皇居まで徒歩

仕事の帰り、ふと気分転換に歩こうと思い立った。歩くのは久しぶりだが、いつも茅場町まで歩いて地下鉄に下りてしまうので、今日は日本橋まで行こうと思った。永代通りを西へ向かってしばらく歩き、永代橋にさしかかった。

この橋が好きだ。水色のアーチがしばらく腰くらいの高さで続き、おもむろに空へ向かって立ち上がる、その曲線がすごく色っぽいと思う。橋に色っぽいとか感じるとまるで総裁みたいだが、でも隅田川に架かる橋の中で永代橋が一番素敵だと、個人的には思う。隅田川の橋の下に住めといわれたら、迷わず永代橋を選んで、毎日永代橋を眺めて暮らすだろう。
そんなことを考えながら、途中、いつもはしない寄り道をして、居酒屋のメニューをのぞいて見たりしながら、茅場町までぶらぶらと歩いた。いつものように地下鉄へ下りそうになったが、引き返して日本橋まで歩いた。ここからは未知の領域だと思っていたが、200メートルも歩かないうちにもう日本橋の地下鉄への下り口があった。
つまらないからもう一駅、大手町まで歩こうと思った。
歩いているうちにコレド日本橋のあたりで涙が出てきた。寂しいと思った。僕は一人ぼっちだった。すれ違う人を誰一人として知らないし、向こうも僕を知らない。この気持ちを誰とも分かち合えないと感じた。なぜ泣きたくなるのか分かっているような気がしたが、分かりたくなかった。自分がそんなに弱い人間だとは認めたくなかった。
いっそ竹橋まで歩くことにした。皇居が見たかった。皇居に特に思い入れがあるわけではない。ないと思う。気持ちをごまかすためにお酒を飲みたくなったが我慢して、JR東京駅北口のスターバックスでジャバチップフラペチーノを飲んだ。
休憩したことで少し気分が良くなったので再び歩き出し、夜のオアゾを通り過ぎてパレスホテルにたどり着いた。交差点の向こうへ渡ると、そこは東御苑の入り口だ。お堀端では、夜だというのにたくさんの人がジョギングやウォーキングをしていた。みんな走るために走り、歩くために歩いていた。僕が門前仲町から竹橋まで歩いたっていいじゃないかと思った。飯田橋まで歩こうかとも思ったが、ここから先は道がよく分からないし、さすがに疲れてきたので、竹橋であきらめて地下鉄に下りて、家に帰った。
管理職になって1週間と少し経ったが、思っていたよりしんどい。いろんな人のいろんな気持ちが見えるようになったし、自分の至らなさも以前よりもっと邪魔に感じるようになった。
この気持ちをあの人に話してみたいと思った。だけどあの人はもう、ここにはいない。元気にしているだろうか。