空飛ぶタイヤ

わかりやすい勧善懲悪な話…ではない。

空飛ぶタイヤ

空飛ぶタイヤ

基本的な路線は確かに勧善懲悪だ。真実を求める真摯な態度が、顧客を顧みない大企業の危機管理に風穴を開け、リコール隠しが白日の下に明らかになる。絶望にうち負かされる直前に突破口が見出される、倒産寸前に融資してくれる銀行が現れる、そんな御都合主義的な展開。大企業の出世競争、派閥争いの闇へもそれなりに切り込み、淵まで行って覗き込んで帰ってくるが、山崎豊子ほどっぷりと浸かり込んだりはしない。読みものとしてはそれなりによくまとまっているが、カタルシスというのとはすこし違う印象。
ここにはアンパンチも登場しないし、優秀な警察官も優れた技術者も登場しないし、企業内に義憤もない。企業内にあるのはあくまでも出世欲と派閥争いであって、リコール隠しですらその取引材料でしかない。企業がもはや立ち直る力を失い、身売りを画策する段階になっても、当事者たちは自らの保身に汲々としている。
そんな大人の事情を飲み込んで、いったん抜いた刀の鞘を納める被害者たち。もう十分だ、これ以上やっても死者は浮かばれない。その見切りがただひたすら不愉快だ。なぜ不愉快なのかは分からない。でも引き下がるタイミングはそこじゃないだろう。
「レイダース 失われたアーク」のラストシーン、巨大な倉庫に聖櫃がしまわれてしまうシーンを思い出した。

インディ・ジョーンズ レイダース 失われたアーク〈THX版〉【字幕版】 [VHS]

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