再掲:高齢者が引き起こす交通事故は増えていない
社説:高齢者の自動車運転 従来以上の制限が必要だ - 毎日新聞
「警察庁の統計によると、免許を所持する人のうち昨年死亡事故を起こした人の年齢別比率は、85歳以上の高齢者が最も高く、30代の5倍以上に達した。」
この記述は正しくない。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000031819316&fileKind=2
↑これは今年3月の月報だが、月報を12ヶ月分集計したものが年報であることと、全体のトレンドは10年間ほぼ不変なので、傾向としては概ね同じ数値と推定してよいはず。(昨年度の統計はまだWebに載ってないみたいなので、この数字で説明します)
毎日新聞が書いているのは表3-3の数字、「年齢層別免許保有者10万人当たり死亡事故件数」のことだと思われる。10万人あたりの件数では確かに85歳以上が高いが、この表の一番右の列にある通り、免許保有者の人数構成率が30代と85歳以上では大きく(20倍くらい)異なる。この比率を考慮するとむしろ30代の方が事故件数は増える。
その事故件数は、表3-2にあるとおり、30代が71件、85歳以上は16件。明らかに30代の方が多い。
そして一番重要なことだが、この統計に示すとおり、死亡事故の件数はここ何十年間もずっと減少傾向である。警察の活動、自動車の性能向上、運転者の意識の向上により、事故が減っていることを忘れてはいけない。
そして、交通事故による死者は高齢者が多いことも忘れてはいけない。表2-2にあるとおり、65歳以上の交通事故死者数が常に65歳未満の死者数を上回っていることは重要である。
次にアクションを考えるなら「高齢者をいかに交通事故から守るか」であって、「高齢者からいかに運転免許を奪うか」ではない。
全ての交通事故は被害者にとって悲惨であり、起こさないように努力することは重要だ。しかし、特に悲惨な例を取り上げて全体像を歪ませ、間違った情報で高齢者を過剰に束縛する議論を誘導するのは、報道機関として正しい姿勢とは思えない。
同じ趣旨の記事を2年前にも書いたのだけど、報道機関のこういう、自分たちの都合のいい数字だけを示して世論を誘導しようとする姿勢は2年前から一向に変わらない。