半島を出よ

半島を出よ (上)

半島を出よ (上)


福岡が北朝鮮の強硬派分子のはけ口にされて占拠され、日本政府は何もできずオロオロ、他の国々はじわじわと占拠を容認する方向へ動きつつ、12万の北朝鮮軍がさらにやってきてしまうともうどうしようもなくてどうしましょう、という話。
村上龍は「五分後の世界」「愛と幻想のファシズム」などでもそうだけど、現代社会を少し進めてそこから異変が起きる、という設定で物語を書くのが上手い。異様に上手い。綿密な取材に基づいて隅々まで構想の行き届いたプロットで読者を引き込まずにはおかない。そして登場人物の誰かに強く感情移入させる。しかもたぶん、誰に感情移入するかは読む人によって、また読む時によって異なってくる。
北朝鮮の特殊部隊の数人について非常に深いバックグラウンドまでの人物描写が行われていて、誰かに感情移入せずにはいられない。彼らがここへ至らざるを得なかったその苛烈な半生には強く同情する。
しかしやはりイシハラグループがホテルへ侵入し爆薬を仕掛けるときには「負けるな」と思うし、北朝鮮軍がエレベーターで最上階からゆっくりと降りてくるときには読みながら本当にドキドキしたし、エレベーターホールでの戦闘の結果にはやはり快哉を叫んでしまう。それはもちろん村上龍が狙った効果でもあるわけだが、それだけではないような気もする。
自分が結局は日本人であることを強く感じた一冊だった。