サッカー小説としては素晴らしい
イタリア・セリエAを舞台に、危険なドーピング薬品を摂取させられそうになる日本人サッカー選手とその友人である小説家の活躍を描く。
と書くとアクション小説みたいだが、内容はほとんどサッカーの試合を描写することに費されており、ストーリー性はあまりない。結局ドーピングの陰謀は誰が企んだことだったんだ、とか、冬次はドーピングさせられたのか、とか、推理小説的な展開を求める人にとっては非常に消化不良感の残る作品だろう。
しかし、サッカーに関する描写はすごい。選手同士の駆け引き、スタジアムの観衆の一挙一動、世界トップレベルのプレイヤー(多くが実名で登場する)の華麗なテクニックなどが、まるで読む者がスタジアムで主人公と共に観戦しているかのような臨場感を持って描かれる。スタジアムの喧騒、ウルトラスと呼ばれる熱狂的ファン達の怒号、審判が吹く笛の音、ボールを蹴る音までが聞こえてきそうなくらいだ。特に最後の、セリエA残留と優勝のかかった熱戦は素晴らしい描写力で迫ってくる。
作者も後書で述べている通り、この小説はサッカーを描いた小説だ。読む側もそう思ってサッカーを楽しんでください。