全編余すところなく吉田羊。吉田羊が苦手な人はたぶん無理。
予告編からもわかる通り、原作とはだいぶ趣きが異なる。原作にはなかった小道具もいくつか現れる。しかしそれは最後にサチが愛するものの喪失と折り合いをつけるために選びとるものであり、この映画には必要なものだ。
きちんと原作に沿って話が進んでいくし、たぶん一番言いたいことは原作と同じだと思う。
受け入れること。
そして原作にはなかった10年という時間の流れをしっかりと表現することに、この映画は成功している。
例えばサチが海には近づかないこと。日陰にばかりいること。そして浜辺へ出て、海に入ること。最後にはまっすぐ海へ向かうこと。
例えばタカシの部屋をすっかり片付けてしまうこと。そして彼の遺品を取り出すこと。暗く淀んでいた部屋に風が入ってくること。
例えば手形を頑なに受け取ろうとしないこと。警官の奥さんと悲しみを分かち合うこと。
安宿がまともなホテルに変わること。酔っぱらいの支配人が大人になること。親友との別れを経験すること。
それらの変化に気づくきっかけとなる、若者たちとの出会い。
原作をミニマリズムの極致と受け取って、丹念に肉付けしていくと、このようなストーリーになるかもしれないと思わせるだけの自然な流れがあり、観終わった後には爽やかなカウアイの潮風が吹き抜けていく。
村上春樹の原作が好きな人にこそ見てほしいと思います。オススメです。