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ヘルシンキ滞在最終日

6月19日
午前3時に目が醒める。
日本は午前9時。帰国してからの時差調整を考えると、いま起きるのが良いのではないかと思い、ベッドから出てシャワーを浴び、荷造りをはじめる。クッションになる衣類をスーツケースの底の方に、なるべくコンパクトに。手荷物は必要最小限で。
洗い物ばかりなのでギュウギュウに詰め込むことができ、買っておいたお土産を加えてもまだ少し余裕がある。作戦通り!

NHKの海外向け衛星放送を観ながら1日の予定を考えているうちに6時半になったので、朝食を食べに行く。

ロビーもレストランも閑散としている。たぶん僕が一番乗り。昨日で会議が終わったので宿泊客が出払ってしまったか、それともみんな急ぐ必要もないとゆっくり寝ているのか。

外はまだ少し雨が残っている。少しずつ朝食に来た人が増え、それでも閑散としたレストランでゆっくりパンを噛みながら、遠くに来ているのだと思う。久しぶりに羽根が伸びたような、何かのつかえが取れたような感覚がある。早起きしたにもかかわらず、意識がとてもクリアになっている。

でも、それも今日までのこと。

部屋に戻って歯を磨き、荷物をまとめてフロントへ行き精算を頼む。
Were there any problems, during your stay?…No, it was a very pleasant stay.…That's good for us. …Thank you, have a nice trip.

路面電車に乗り込む。チケットは昨日のがまだ有効。発車時刻が過ぎてもしばらく電車が来ず、来てからもしばらく終点で停車している。
今日は休日ダイヤで運行しているのだと気づく。Midsummer.

ヘルシンキ中央駅のコインロッカーにスーツケースを預け(6ユーロ)、昨日入りそびれたカンピ礼拝堂へ。
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中はとても狭い。30人も入ればすし詰めになりそう。そして音がない。自分の靴音や布ずれの音が響く。日本人のカップルが先客でいるが、そそくさと出て行ってしまう。礼拝以外の目的で来るのははばかられる感じの、とてもプライベートな空間だ。
ここでも2ユーロ払って蝋燭を寄進し、そそくさと立ち去る。

再び4号線に乗って、次はマーケット広場へ向かう。
祝日にもかかわらずテントがたくさん張られて、開店準備が進んでいる。
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フェリー乗り場でスオメンリンナ島へのチケットを購入。往復で5ユーロ。

書き忘れたがヘルシンキ路面電車やフェリーでは、いちいちチケットを確認したりしない。乗ろうと思えば無賃で乗れる。噂では(案内にも書いてあるのだが)時々係員が2人ペアで前後から挟み撃ちして改札にやってきて、チケットを持ってないと罰金80ユーロを徴収するらしい。くわばらくわばら。
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フェリーは1階に座席と、2階は露天で外の景色を楽しめるようになっている。
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近くに観覧車が見える。時間があれば乗ってみたいなあ、とか思っていると、ギャアギャアとやかましく喋り散らしながら中華の一団が乗ってくる。ツアー客らしい。
どいつもこいつもマナー悪い。カメラを構えてあちこちで写真を撮る。その度にギャアギャア騒ぐ。写真撮影の足場代わりにベンチの上に土足で乗る。こいつらには人の迷惑を考えるという概念が生まれつき欠落している。
ひどい。うるさい。乗ってくんな。あっちいけ。

いっそ降りようかと思うが、他にスオメンリンナ島への移動手段はないし、お金も払ったし、ここで降りたら負けだと思い、ぐっと我慢する。

これは戦争か?戦争なのか?これから俺たちは戦地へ赴くのか?

…冗談はさておき、スオメンリンナ島はかつて軍事要塞として活用されていた島であり、その頃の建物が今でも遺され、世界遺産の指定を受けている観光スポットなので、中華の人たちがたくさん見に来るのも自然の成り行きであって、僕の方に覚悟がなかっただけなのだ。トホホ。

フェリーが港に到着し、上陸した中華軍は旗を掲げたツアーガイドに率いられてまとまって行軍していき、僕は建物を観ながらゆるゆると歩く。
海鳥がたくさん、草をついばんでいる。時折親子連れもいて、人が近づくと、親がトトトトと離れていき、子も遅れまいと必死にトテチテ走る。かわいい。
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レンガ造りの建物が壁のように入り組んで立ち塞がる間をクネクネと不自然に歩き、通り抜けていく。建物には銃眼と思しき、深い小窓がたくさん並んでいる。
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時々、住居と思しき木造の建物があり、この島にも人の生活があることを想像させる。
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この建物は今はカフェとして営業しているが、今日はお休み。Midsummer.

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割と大きな教会がある。解説の看板を読むとそれなりに古く歴史のある教会らしい。中に入って寄進しようかと思うが、ここも今日はお休み。Midsummer.

4つの島が橋で繋がれていて、いろんな施設跡が点在しているらしいのだが、全部見ていると飛行機に乗り遅れそうなので、とりあえず潜水艦を見に行く。
橋を一つ渡って、案内板に沿って人気のない道を進む。中華軍はどこか別の場所へ進軍した模様。
途中、黄色いビブスを着て黙々とゴミを拾う若者とすれ違う。この島の景観は意外と地味な努力で保たれているようだ。

そういえばヘルシンキの街中にもほとんどゴミは落ちていなかった。芝もきれいに刈り込まれていた。道路にも補修が必要な箇所には出くわさなかった。代わりに補修中の道路はいくつか見かけた。
福祉国家というだけではなく、真面目な国民性なのだろうと思う。バスや市電の運転手や、ショップの店員たちも、みんな粛々と働いている。

でもそんなにたくさん働いているわけではないようだ。昨日夕食を共にしたフィンランド人の彼の勤め先には、年間5週間休みがあり、他にも無給で2週間まで休める制度があると言っていた。
たぶん、そんなにあくせく働かなくても、老後の心配がないのだろう。
そんな国家が長期的に持続可能であればよいのだが。

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海沿いの道を回り込んだところの行き止まりに潜水艦はあった。
有料だが中に入ることもできるらしい。でも今日は休み。Midsummer.

道を戻り、丘を登ると、営業しているカフェがあった。つい嬉しくて、中に入ってコーヒーを買って飲む。2ユーロ50セント。オーケー、カップはここ、コーヒーはこのポットの中、クリームと砂糖はここね。言われた通りにカップを取ってポットからコーヒーを注ぐ。クリームと砂糖はパス。
まだ入れたてのコーヒーはとても美味しい。窓際に座ってしばらくぼんやりする。
店は開店したばかりらしく、店番の女性はテーブルクロスを敷いたり、花を活けたりしていたが、そのうちどこかへ行ってしまった。
中華軍の分隊が、店の前の茂みに咲いた紫色の、たくさんの小さな花の前で写真を撮っている。うるさい人はいない分隊らしく、おとなしくニコニコしながら、小声で何か話し合っている。微笑ましい光景だが。

コーヒーを飲みながら地図を開く。近くに砲台があるらしい。どうせ中華軍がいるだろうが、見てみたい。

コーヒーがなくなったのでカップをカウンターに置き、店を出る。店番の女性はベランダで脚立に乗って屋根の何かを修理している。ここでもフィンランド人の勤勉さが発揮されている。誰かが見張っているわけでもないと思うのだが。

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砲台にたどり着く手前に小さな入江があり、子供達が釣りなどをしている。海水浴場もあるようだ。指導役らしき大人がついている。何かのアクティビティだろうか、慣れた様子なのでおそらく地元の子供達なのだろう。木造のさほど古くない家屋も散在しており、フェリーが運行しているくらいだから、世界遺産の島とはいえ生活している人がいるのだろう。そういえば教会もあったじゃないか。
彼らは中華軍の侵攻をどのように受け止めているのだろうか?

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砲台は4つあり、そのうちふたつに大砲が設置されている。砲口を覗くとゴミが放り込まれている。中華軍はほんといなくなってほしい。
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大砲の後ろには弾薬庫と思しきレンガ造りの壕が遺されている。もちろん中は空っぽ。

そろそろお昼に近くなってきたので、寄り道しながらも元の船着き場へ戻る。行きは気づかなかったが、船着き場のすぐそばに観光案内所とレストランがあるらしい。でも開いているか分からないし、他のところも見に行きたいので、次のフェリーで引き上げることにする。
スマホを取り出し(WiFiルーターはちゃんと電波を拾っている)、暇つぶしに、ついさっき届いたメールに返事を書く。

"いま、スオメンリンナ島に来ています。明日帰ります。"

フェリーでマーケット広場に戻る。すぐそばに大統領官邸がある。警備もなくひっそりとしている。
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トイレに行きたくなり、探しながらウスペンスキー寺院へ向かう。北欧最大のロシア正教の教会なのだそうだ。
ちょっと観覧車の方へ寄り道してトイレを探すが、あいにくここのトイレは閉まっている。他をあたることにする。

ヘルシンキは所々にWCと書かれた看板があり、矢印と距離の表示で公衆トイレの場所を教えてくれる。大抵は有料だが、教えてくれるだけでもずいぶん便利だと思う。
でも肝心の時にはその看板が見つからない。
そして尿意をこらえながらたどり着いた教会も案の定今日だけ閉まっている。Midsummer.
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ついてないなと思いながら、マーケット広場へ引き返す。多くの店が営業しており、たくさんの人で賑わっている。この界隈だけは夏至祭は関係ないみたいだ。
そして人の集まるところにはトイレもある。ふう。

一息ついたところでマーケット広場をぶらつく。果物や野菜や土産物や衣服、色んなものが売られている。そしてもちろん、食事を売る屋台もある。適当に目をつけた店でハンバーグとソーセージの盛り合わせを注文する。
小さな新ジャガとベリーソースが当たり前のようについてくる。
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味はまあいわゆる屋台料理の味。とても美味しいが、量が異常に多く、パンクしそうになりながら、意地でお腹に押し込んでいく。回りの人も結構残しているので、僕の体調が悪いというわけではないと思う。
なんとか平らげてゴミを片付け、腹ごなしに中央駅まで歩くことにする。エスプラナーディ公園。
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公園を縦断するように遊歩道が続き、その両側にベンチが並んでいる。
南側から陽が差しているが、背の高い木が立ち並んでいるので、南側に並ぶベンチは日陰になり、北側に並ぶベンチは正面から太陽を浴びることになる。
結果、北側のベンチに人がびっしりと並ぶことになる。ひなたぼっこするフィンランド人たち。
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公園を離れて再び中央駅付近へ。しばらくウロウロしてみるが、ほぼゴーストタウン化しており、ソコスもストックマンもフォルムもカンピも閉まっている。ところどころ、ビルの1階にあるカフェだけが、気の抜けた炭酸水のように営業している。
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ここにいてもなんの収穫もないので、少し早いがバスで空港へ向かう。帰りはバスの無線LANも使ってみる。けっこう快調。

空港に着いても案の定、乗る飛行機の搭乗手続きがまだ始まっていない。そして国際空港にありがちだが、出国手続きを通過した先にしかろくな店がなく、キオスクでチョコレートくらいしか買うものがない。

余談だけど、ここで買ったチョコレートが家族にとても好評だった。ヨーロッパではお土産はチョコレートを買えば間違いない。これ豆知識な。

搭乗手続きが始まり、行列がゆるゆると消化されていく。ビジネスクラスの列はやがて空になり、エコノミークラスが3列に増える。日本人とフィンランド人の太った人、普通の体型の人。ビジネスクラスの列は太った人がさばいていた。見ているとこの人が一番手際がよくて、並ぶ人がサクサクと消化されていく。普通の人の使っている機械の調子が悪いらしく、日本人スタッフが時々ヘルプに入る。あー太い人がいいな、と期待するが、順番で普通の人に配属されてしまう。手続きそのものはスムーズに終わったのだが、なぜかハズレ感が漂う。ラウンジの地図もデフォルトで手渡してくれて、ちゃんと仕事しているので、失礼な感想だと思います。ごめんなさい。

セキュリティチェックの列に並ぶ。一列に並んで、係員の女性によって3列に振り分けられている。ところがこの人が、俺の目の前で仕事をサボってセキュリティチェックの係員となにやら話している。最終日にして、いい加減なフィンランド人を初めて見た。ショック。

出国手続きは特にトラブルなく通過。一つずつけっこう時間がかかったせいで、買い物とラウンジに寄る時間があまりない。まあこれは海外旅行ではいつものことだよね。現金がまだ残っているので頑張ってお酒など買って減らす。ちょっと両替した金額が多すぎたか。
ラウンジでビールを飲もうとするが、セルフサービスのビアサーバーからは泡しか出ない。諦めてシャンパンを2杯がぶ飲み。酔っ払って帰りの飛行機ではさっさと寝るつもり。目が覚めて日本に着けば、ちょうど朝になるという算段。
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シャンパンが美味しい。最後にちょっと得した気分。

さらばヘルシンキ。楽しかった。