色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

久しぶりにまともな小説だと思いました。

不思議な舞台装置も、特殊な能力の持ち主も出てこない、そういう意味でのまともな小説。

主人公を大きく変化させ、ある意味では大きく損なった出来事について、きちんと謎解きというか、そうせざるを得なかった、そうまでして大切な人を結局救えなかったと、かつての親友たちのそうした苦悩をきちんと解き明かしてくれているところとか。

主人公が巡礼を通して、自分は不要とされて切られたわけではない、むしろ必要とされるだけの資質を持っていたし今でも必要とされている、そのことを知って、ある部分では以前よりも成長して帰ってくることとか。

ノルウェイの森で書かれた、生の対局ではなく生の一部として存在する死の淵を覗いて、それでも自分で人生を選び取って、あるいは親友に支えられて、そこから帰ってくることができた、そんな救いが示されたことは、村上春樹という小説家の進歩の証かな、とか。

いろんな意味でまともな小説だと思いました。

完璧な人間関係なんてものは存在しない、学生時代の狭い世界ではそれが存在するように思えても人が成長していく以上それは永遠には続かないし、だからといってそれで人生が終わったりはしないし、その先に別の豊かな人生が待っているのだということを知らない、今から苦悩することになる若者たちにこそ読んでほしい小説だと思いました。

細かいことを書き出すとキリがないというか、また改めて。