硫黄の臭い、砂礫の谷

箱根に来ると必ずロープウェイに乗る。大人はいい加減飽きているし、車で大涌谷まで行けると分かっているのだけれど、子供たちはロープウェイが大好きで、それだけの理由で僕たちは必ずロープウェイに乗る。
桃源台の乗り場を離れてしばらく進むと富士山が見える。今年は特に天気が良くて、風も弱く、暖かい日が続いている。富士山の雪の裾野も心なしか短いように思う。手が届きそうな白い頂を見たり、これから登っていく先を窺ったりしながらゆっくりとロープウェイが上っていく。
大涌谷に着くと、そのまま降りずに一度早雲山まで下って、もう一度上って帰ってくることにしている。それで、たぶん今年からだと思うが、ゴンドラも駅の施設も随分きれいになって、大涌谷から早雲山までの下りのゴンドラも18人乗りでガラス張りのきれいなゴンドラに変わっている。そのゴンドラが大涌谷から下りの前に一度、峰まで上っていく。足元には湯気を吹き上げる砂礫の斜面が見える。がけ崩れがひどく、保全のためにずっとさまざまな工事を続けている。今日も、3人ほどの人々がなにやらパイプらしきものを運んだり、何か話し込んだりしている。所々短い煙突のようにも見える太いパイプが地面から突き出して、盛んに湯気を上げている。硫黄でまだらに黄色く着色した地面を沢山の細いパイプが、むき出しの水道管のように這い回っている。
峰を越えると行く先は一転、急激な下りに変わり、ゴンドラの乗客から驚きとも喜びとも取れる感嘆の声が上がる。ジェットコースターが鎖に引きずられて頂点に達し、向きを変えて下り始める、あの緊張感にも似ている。次の鉄塔まで、足元には深い深い常緑樹の谷が口をあけている。ここで万が一ゴンドラがロープから外れて落下したら、決して乗客は誰一人助からない。そんな確信がゴンドラの中に満ちる。
そして子供達と同様、僕もこのロープウェイが大好きになる。毎年乗る前は飽きているのに、乗るとやっぱり楽しかった、そうだった、こんな楽しい乗り物だったんだと再発見する。そしてまた来年も乗れたらいいなと思う。その繰り返しが僕は好きだ。