うまく言葉にできないことのもどかしさ

吃音の少年の成長を通して、少年期の子供たちが抱く憧れ、苛立ち、喜び、悲しみ、いろんな感情を描く短編集。
主人公の少年は吃音のため肝心なことをいつも言えないで苦しむが、しかし考えてみれば、吃音のない自分も余計なことばかり言って肝心なことは何一つ言えていないような気もする。今だってそうだ。それを思えば、肝心な言葉を探し、言おうとするこの少年の努力は尊敬できる。
それはそれとして、冒頭に書かれた作者の言葉を信じるなら(作品の構成のために付けられた作り話かも知れないが)これは個人的な物語である。その個人的色彩ゆえに、吃音を持たない私には今ひとつそのもどかしさが伝わってこない気がする。その部分が読者の共感に委ねられる割合が彼のほかの作品に比べて高く、今ひとつ物語に入り込めない気がした。